鮫が空を泳ぐ時

飛行機にはできなくても、貴方はきっとできる。

青空の大きさを この目で見ようよ~ミュージカル"BE MORE CHILL"観劇レポ

 

去る2022年7月25日、東京は新国立劇場でミュージカル「BE MORE CHILL」が初日を迎えた。開催に向けて不安な気持ちを抱えずに居られなかったが、それを覆す熱気と言ったらありゃしない、そんなミュージカルである。外気温と会場内の室温がそんなに無い気すらする(比喩です)(座席は世界で1番適度に涼しいですありがとう新国立劇場)。

 

主催がTBSということで、番宣有り、特別番組有り、宣伝動画有りと「こんなに始まる前に見て良いの……?」なコンテンツも沢山生み出された。

 

薮宏太× BE MORE CHILL 〜トニー賞演出家に挑む覚悟 6/29(水)深夜1時28分【TBS】 - YouTube

見ればTBSに足向けて寝られなくなる動画

 

アメリカのYA向け小説をミュージカル化したところYouTubeで大旋風を巻き起こし、後にスティーブン・ブランケット氏の演出でブロードウェイ進出……という、現代ならではの背景がある作品。しかも「日本のオタク文化にインスパイアされて作られた」部分もある作品のアジア初上陸。一アイドルが背負う重圧では無いようなものをもって薮くんは臨んでくれた。

 

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お友達がなんと現地アメリカにて買ってくれた原作。邦訳はまだ無いとのこと。Game Boy SPとかも出てきてページめくる度にエモさとジャポニズムと斬新さで目玉が1個無くなる

 

同じく薮くん主演作「ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート」中止から2年、日本情勢は未だどこか回復し切れておらず。ニュースを見る度に薮くんを、ミュージカルを案じた。そんな心配も疎か、東京公演は無事完走。あまりにパワフルすぎる作品である。

 

 

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東京初日公演より。個人的には坂本昌行氏のミュージカルで何度も訪れていたところに薮くんの出演作を観られたエモさが凄かった
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7月30日公演より。1つ前のが新国立劇場、こちらは初台駅新国立劇場側の出口に抜けていく途中にあるポスター。デカい
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東京千穐楽。公演後40分経ってもずっと残った人が作品の話をしてた。薮担以外の方も沢山いらしてた印象

 

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福岡公演のあったキャナルシティ劇場。ショッピングモールの中にあるというのがアメリカンな雰囲気を感じた。作品の没入感がすごい

 

思い出ヒタヒタなところで、今回も演目1つに対して自分が公演毎のラッキーでハッピーなアクシデント(!?)な出来事やアドリブを付け加えたいと思う。

 

注:書いていて混同する為、横山だいすけさんが演じる役を「スクイップ(カタカナ表記)」、錠剤の方を「SQUIP(アルファベット表記)」としています

 

生き延びたい ― More Than Survive

 

ミュージカル『BE MORE CHILL(ビー・モア・チル)』舞台映像(劇中楽曲「生き延びたい」)収録日7/29(金)13:30公演 - YouTube

 

こちらの動画でドーンと歌われてる曲。カカカカかもーん。

 

でも衝撃の最初、まさかの暗転からのジェレミー上裸登場はカットかぁ。そりゃあそう。劇場入って直ぐに机があって、あーハルみたいじゃーんとか思ってたのに、暗転したら上裸の主人公がいる。ふぅーん……。

 

衝撃の始まりの直前。後ろに大きくあるモニターとそれを囲むピンクのネオンが印象的なセットが会場に入って直ぐ目につく。開演前の影アナはなんと、スクイップ。「録音、録画行為は、人間達の演劇的経験の妨げになる。非常に有害だ。だから止めろ」という、なかなか稀に見る煽りスキル高めな影アナでちょっと緊張感が走る。

 

こんないきなり話逸れる?本編。ジェレミーが学校を出る直前までまあちょっとお盛んな動画をPCで見てたら固まって遅刻直前……と文字にしたらまあまあとんでもないスタート。薮くんも「いきなりエロ動画固まって~♪から始まるんですよね~」みたいなことをあちこちで言ってる。まあ、そんな始まりなかなか無いよね。

 

無事着替えた後、ブラザートムさん演じる父親がと朝の挨拶……ってこっちはズボン穿いてないな。なんでだ。服を着る方が異常な世界線なのか?「父さん、パンツ穿いてよおぉ。」嗚呼、ジェレミー。良かったです。アメリカは車じゃないとなかなか学校に行けないので、ジェレミーはお父さんに送迎をお願いするんだけど「いやぁ……今日は家を出る自信が無いんだ……」と断られてしまう。

 

このジェレミーのお父さん、気持ちめちゃくちゃ分かる。いや、自分は家でも服着るよ?そうじゃなくて、前もって外出ようと計画した日でも、当日になって気分が乗らないというか、本当に足が竦んで動けなくなってしまう日がある。でも、ジェレミーからしたら遅刻やバスに乗る不安、アメリカでは珍しい歩いて行ける近さでも汗臭くなったらどうしようという憂鬱さの方が大事で、父親の言い分が通用しない。何が苦しいって、これも物凄く分かるというところ。

 

仕方なくジェレミーは意を決してバスへ。バス乗って、教室で授業受けて、の演出が強烈。椅子とモニターと振りだけで表現されてる。薮くんはカウントだけで歌ってその後サウンドが入って他の生徒のダンスが始まる感じだし。そこに車体が無いのに、バスが走ってる。

 

Musical「BE MORE CHILL」③ - YouTube

↑動画上がりました。陳謝……

 

あと、そこに建物が無いのに、教室の授業風景だと分かる。数学の授業中にバスケやるなんてやっぱり自由だなぁ。そういや原作で皆が一緒のクラスも数学だったなぁ。

 

 

 

  • クリスティン登場

 

ロッカールームで罵声を浴びせられ、カバンに落書きをされ、苦痛さを歌い叫ぶジェレミー。目立たぬよう、ポスターとも目を合わせないで廊下を歩こうとするが、それは流石に無理だったらしく、演劇会の出演者募集のポスターとクリスティンを見つける。井上小百合さんが演じる彼女こそ、ジェレミーの片想いの相手だ。

 

いきなりメロディが変わってただただ「クリスティン~~~♪」って歌うだけになるこのパート。でもまた元のメロディに戻るんだよね。クリスティンがジェレミーのカバンに"BOYF"と書かれていることを指摘したタイミングで。不思議な編成。

 

7月30日マチネ

 

初日はただ「クリスティン~~~♪」だったのに、急に「クリスティン~~~~ah↑♪」って感じの激強インパクトな歌い方になってて何!?となった。いや癖か強いんじゃなくてインパクトが強い。めちゃくちゃ印象変わる。歌い方1つでえっ、な、何!?ってなる。でも好き。薮くんはやっぱり日々進化する御人。

 

  • マイケル登場

 

そこへ現れたのはフラペチーノの容器を持ったマイケル。ジェレミーと同じく学校では「負け組」と称される彼だが、ヘッドホンから流れるイケてるミュージックとネギ寿司とフラペチーノを一遍に摂取することでアガっちゃう最高のキャラクター。演じるのは、薮くんと「任侠ヘルパー」以来の共演となる加藤清史郎さん。もう「さん」付けしか出来ないぐらいパフォーマンスがすごい。

 

ジェレミーはマイケルに自分のカバンに書かれた落書きを見せる。すると、マイケルのには既に"RIEND"と書かれていた。繋げると"BOY FRIEND"……oh……見方によっては酷ないじめだ。でも当のマイケルは「母さん達、超喜ぶよ~!!」と大興奮。ジェレミーは落ち込んでしまうものの、クリスティンと同じ演劇サークルに入って自分自身を変えようと決意する。

 

  • クラスメイト登場

 

クリスティンと仲良くなれることを夢見ながら(このシーンのクリスティンのダンスが大好き)入会するも、入るなり周囲から「ゲイ」呼ばわり。ミュージカルやる男の人、アメリカではこう呼ばれてしまうケースもあるから苦しい。あとマイケルの「母さん達」ってセリフがめちゃくちゃ気になってたんだけど、あれご両親がレズビアンなのね。理解がありそうなアメリカでこれだよ~みたいな現実突きつけられるのねこの作品……。

 

リハーサル最高 ― I Love Play Rehearsal

 

ジェレミーがリハーサルの場所に向かうと、そこには早速クリスティンが1人でいた。「ここは水泳チームの集まりよ」とからかわれてしまう(こういうジョークが本当にアメリカっぽくて世界観がリアルになる)ものの、2人きりで話すことに成功する。

 

クリスティンはとにかく演じることが大好きで、特にリハーサルが好きということをひたすらここで歌われる。クリスティンのパーソナルな部分、例えばADHDとか、喋り過ぎちゃうのを気にしてるとか、でも自傷行為はしてないとか、そういった部分に迫ることができるシーン。でもどんなクリスティンも大好きなジェレミーは、黙って、うっとりと聞いている。たまにちょっとびっくりしながら。

 

早口で喋ったり歌ったり踊ったりしてたらあっという間に他の参加者が集まり出す。この時ブルックが「らららららら……」って歌いながら来るんだけど、なんだこのメロディ、って1回なるんですよね。本当に伏線が多い。後で触れます。

 

演劇サークルの顧問であるレイアス先生も集まるが、来て「夏の夜の夢」をゾンビメインの現代版にアレンジすると宣言するとたちまち休憩時間にしてしまう。演劇に全てをかけて挑むクリスティンは納得がいかず、その場に留まる。すると、そこにジェイクが現れる。

 

ジェイクはクリスティンをきっかけに今回参加したという。仲睦まじく話した2人を見て、ジェレミーはジェイクが去ったあとにクリスティンに再度話しかけてみる。しかし、クリスティンは上の空……。

 

8月10日東京楽

 

ジェイクがカッコつけてクリスティンの前でバスケのワンハンドシュートをエアでやるというアドリブが。それで去っていくんだけど、クリスティンともう1度話すためにジェレミーが立ち上がる時、このワンハンドシュートをやってくれる笑。

 

生き延びたい (Reprise) ― More Than Survive (Reprise)

 

クリスティンと別れ、サークルの部屋を抜け出すジェレミー。ジェレミーはこんな世界でも、自分という存在を認知されるには、自分として生き延びるにはどうしたら良いのかと問いかけ、そして生き延びたいと歌い上げる。

 

このアカペラっぽいバラードバージョンのMore Than Surviveよかったな……ジェレミーと薮くんの願いが1つになる感じ。大好きな部分です。

 

8月10日

 

この歌の後ろでクリスティンを演じる井上さんが椅子を自ら5脚片付けるのだけれど、この時、前の曲でジェイクとジェレミーがワンハンドシュートやってたからかクリスティンも捌ける直前にバスケのシュートをエアでやってて可愛すぎた……。福岡で観た時もやってたからいつの間にか追加されたアドリブなのかな。好きです。(?)

 

スクイップ ― The Squip Song

 

その後ジェレミーがトイレに入ると、リッチに絡まれてしまう。逃げようとするジェレミーを殴ろうとしたその瞬間、リッチは突然首の右側を押さえて苦しみ出す。

 

様子を伺ったジェレミーにリッチはSQUIPという錠剤型スーパーコンピューターの存在を教える。何でもリッチはそのSQUIPを飲んだことで陽キャになれたが、それまでは根暗で体型にも自信が無かったのだという。ジェレミーは疑いながらも、「ショッピングモールにあるペイレスシューズという靴屋に売人がいる」というリッチからの情報を脳内で反芻させる。

 

このダンスが本当にすごい。まじですごい。リッチのSQUIPを説明するダンスも、THE ロボットダンスですごい。そしてジェレミーの、ダンスのこともSQUIPのこともあんまり分かってない感じのダンスも……本当にたどたどしさが表れてて、ダンス詳しく無い自分ですら「ち、ちっ、違うなそのダンス……」とイチジャニーズに感じてしまった。

 

2人プレイ ― Two-Player Game

 

Musical「BE MORE CHILL」① - YouTube

↑この動画の22秒辺りで映るシーン

 

 

SQUIPを買うか迷ったジェレミーは、自分の家でマイケルとゲームをしながら作戦会議をする。最初は反対するマイケルに同感していたジェレミーだが、SQUIPについて話し続けるうちにどうしても今の状況を変えたい、クリスティンと付き合いたいという気持ちが強くなってしまう。結局、マイケルと一緒にショッピングモールに行く約束をするのだった。

 

ジェレミーがここまで自分のコンプレックスを気にしてしまう理由が、「2人プレイ」で明らかになる。母親が出て行った日以来、自分の父親がパンツすらまともに穿けないほど精神的に落ち込んでしまっているのを毎日見ているジェレミー。「もしこのままイケて無かったら、自分も将来ああなるのでは無いか」という、分からなくも無いけれど、マイケルの言う通り大学なり何なり広い世界に行けば解決しそうなことが原因だった。別にお父様は行けない日もあれば仕事に行く日もあって、一生懸命生きてて、めちゃくちゃ偉いと思うんだけど、ジェレミーの目には軽蔑の対象として映るらしい……。切ない。

 

ゲーム機を投げ合う、タイミングでクッションに座る位置を交代するなど、息の合ったペアダンスが印象的なこの曲。リハの映像では悪戦苦闘を強いられる2人の姿があったけど、自分が観に行った日は全日成功。凄すぎ。カクカクしたダンスや最後の格闘ゲーさながらな踊り、どれも息ぴったり。

 

スクイップ (Reprise) ― The Squip Song (Reprise)

 

2人プレイから結構曲としては空くんですね、ここ。書くまであんまり感じなかった。多分ここでジェレミーとマイケルは靴屋さんに行って(ブラザートムさんが演じる(!))SQUIPの売人がトイレにいたリッチと同じ歌を歌うからかもだけど。

 

この売人からSQUIPを買ったジェレミーは早速言われた通り、「緑のマウンテンデュー」でSQUIPを飲む。ほぉ。これで起動するのか……と私も観ながら思ってたら、ランニングするおばあちゃんやお買い物マダム、そしてジェイクに「俺が世界で1番景色が良いと思ってる所に連れて行ってやるよ……ピザハット」と謎すぎる口説かれ方をされたクリスティンに見守られながら、ジェレミーが突然苦しみ出す。

 

この苦しみは、ジェレミーの脳内でスクイップが起動されたことによるもの。自分に語りかけるスクイップに、何の躊躇いも無く疑問や思ったことを投げかけるジェレミー。「このやり取りは言わばテレパシーのようなもの。頭に語りかけるだけで良い。でないと他人からヤバいやつと思われる」って言われた後も分かってるのか分かってないのか、そのまま敢行する(ように見える)ジェレミー、本当に面白い。ミュージカルだからそう見えるだけ?と思うけど、最初は周囲の人に後ろ指さされてたからやっぱりジェレミーは可愛いやつ。

 

ビー・モア・チル Part 1 ― BE MORE CHILL Part 1

 

スクイップが一通り自分について説明し、イケてる人間=CHILL系にすることを説明するも、ジェレミーはあまりピンと来てない様子。だからこそスクイップは無理やりジェレミーを従わせる。「俺の言う通りにすれば良い」。自我やそこそこのプライドを持たない人間はこうやって流されちゃうんだよなーと観劇2回目ぐらいから胸が痛くなるシーン。

 

送るわよ? ― Do You Wanna Ride?

 

スクイップに言われるがまま、ジェレミーはFOREVER21でEMINEMとプリントされたTシャツを買わされる。その時、たまたま居合わせたクロエとブルックに「セクシーに挨拶をしろ」という命令をスクイップから課せられる。ジェレミーは見よう見まねで「やぁ、ブルック……セクシーじゃないかぁ……」と許容範囲ギリギリの挨拶を構す。後から知ったんだけど言われてみれば確かに福山雅治さん意識してるの分かる……笑。

 

当のブルックはめちゃくちゃ惹かれてる。まじかよ。何なら一緒に車乗って行かない?送るわよ?って逆に口説かれてる。まじかよ……。確かにめちゃくちゃセクシーに。ジェレミーに迫りながら。フローズンヨーグルトピーチベリーも食べない?って誘い文句歌うとことかもう、脳内から離れない。何でジェレミー断るんだ。行けよ。許すから(?)。


でも結局「マイケルがいるから」って断っちゃうジェレミー。ブルックは名残惜しそうだけど、クロエは激怒。そりゃそうだよ。こんなにウチら誘ってるのに、お前やっぱりゲイなのかよとか思ってたんだろうな。


Do you wanna ride?の訳として送るわよ?ってもう完璧な音ハメというか。凄いめちゃくちゃ気持ち良いぐらいハマってた。これ以上の訳無いんじゃないかってぐらい。聴いてて気持ちよかったフレーズの1つ。

 

ビー・モア・チル Part 2 ― BE MORE CHILL Part 2

 

Musical「BE MORE CHILL」② - YouTube

↑表題曲です。2回目以降の観劇で印象がガラリと変わる

 

めちゃくちゃ後になって気づいたけど、これが1番最後の全員総出演の曲……だよね……?作品と同じタイトルの曲でそれは……もう……ズルいよ……となった。だってほら、スクイップは最後の曲の時……おっと誰か来たようだ。

 

ちなみに、マイケルはもうショッピングモールを出ていったらしい。スクイップがそう告げると、ジェレミーはどう帰ったら良いのか途方に暮れる。こうなることを予測していたから「俺の言うことに全て従えと言ったはずだ」とスクイップはジェレミーに忠告していたのだ。「クリスティンに好きになってもらうには、そのダサい全てを直してチル系になるしかない」と言われたジェレミーは、「かっこよくか……」と呟く。「違う、チル系だ」とジェレミーは訂正される。

 

さっきまでショッピングモールで買い物してたオードリー・ヘップバーンみたいな人とか、色んな人が大勢で集まってくる。スクイップと大勢の人にワンテンポ遅れて踊るジェレミー。この薮くんの縁起、絶妙にキモさが際立ってて縁起上手いな……褒めてるのに褒め言葉に聞こえない言葉しか言えなくて申し訳無いな……語彙力磨いて出直すか……

 

本当に色んな人がいるから推し作れそう。ちなみに自分の推しは1番最後にバイクみたいなマシーン(伝われ)で出てくるおばあちゃんです。

 

同期 ― Sync Up

 

おばあちゃんに気を取られていると着替えが済んで上裸になったジェレミーが。この場面転換好きだった。SQUIPを飲んだ翌朝、ジェレミーはまた机で寝落ちしてたのを起きるところから1日を始める。そっと下半身に手を伸ばした瞬間、電流のような痛みが。頭の中のスクイップが「オ〇二ーは止めろと言っただろ」と再び警告する。

 

「ただのメールチェックだよ……」とジェレミーは誤魔化すけどさ、なんちゅうキャスティングなんだろうとこの時急に思ってしまった。歌のおにいさんとジャニーズがこのやり取りしてるの、どう考えたってヤバい。そりゃだいすけお兄さんも「子ども達にはあまり見ないで欲しいなと……」みたいなこと言ってしまうわな。パブリックイメージよりも、各々の実力で選ばれたんじゃないかともこの時思った。

 

スクイップがスタイリングしたイケイケなコーディネート(赤いスタジャンみたいなパーカー)(ジェレミーの衣装で1番好き)でとりあえずジェレミーは学校へ行くことに。視覚神経を活性化することで裸眼でもちゃんと見えるようになったり、猫背も脊髄に特殊な効果を発揮することでちゃんと伸びて、おお、普段のかっこいい薮くんやんけ。かっこいい薮くんがアメリカの高校通ってるがな。

 

ロッカールームからジェレミーの人生は変わっていた。スクイップに言われた通りに挨拶するジェレミーに、クラスメイト達はちゃんと反応してくれるのだ。声を返してくれる人、グータッチしてくれる人……。明らかに今までのジェレミーへの対応と違う。

 

そんな中、同じくSQUIPを飲んだリッチが、ジェレミーを見つけるなり殴りかかろうとする。見かねたスクイップが何やら呪文のような言葉(電話のボタン音みたいなの)(かわいい)を唱えた。するとリッチの動きは止まり、「ジェレミー!お前もSQUIPを飲んだのか!」と事情を呑み込んでくれる。訳も分からずにスクイップの方を見ると「君のSQUIPとリッチのを同期させた」とジェレミーは言われた。

 

リッチはすっかりジェレミーを仲間だと思い込み、「俺ん家に来いよ!一緒にXboxやろうぜ!SQUIPがあれば、考えるだけで良いんだ!」と誘う。この後のシンクロダンスがめちゃくちゃカッコいい。今までのジェレミーの印象を覆すのにピッタリのダンスだった。薮くんって本当にカッコいいなぁ(オタク初心者)。

 

きっとタイプの人 ― A GuyThat I'd Kinda Be Into

 

クリスティーヌが片思いしているという話をジェレミーが聴く、という内容の歌。リッチ、クロエ、ジェナ、ブルックがその周りをぐるぐる回ってる(可愛い)んだけど、この時スクイップは上手側にもたれかかっててリッチだけが気づいてお互いにアイコンタクト取るんだよね。スクイップされたリッチだけが……

 

なんでいきなりこのメンバーが集まっているかと言うと、場面が変わって演劇サークルの練習がまた始まったからなんですよね。台本無しにセリフを読めない子、「咳」というト書きをそのまま「咳」と読む子(ト書きだから咳をする演技をしなきゃいけない)、練習で良かったなぁという雰囲気。

 

ジェレミーは台本を閉じたままスクイップと脳内で会話する。レイアス先生はそれを見つけると、「練習中に台本を開かないなんて、セリフは全部覚えてきたということかね?」と怒ってしまう。するとまたまたスクイップの出番。スクイップがジェレミーに手をかざすと、なんでアカデミー賞を獲れないのか分からないぐらいの名演技が繰り広げられる。もちろん、演技をするジェレミーの手に台本は無い。

 

スクイップによる名演技とも知らず、練習が終わった後にクリスティンはジェレミーを褒めに駆け寄る。他の子達がこの練習にあまり乗り気で無かったことも重なって、ジェレミーが熱心になってくれていると信じたのだ。そんなジェレミーにクリスティンがまるで惹かれているかのように歌われるのがこの曲。

 

ちなみにこの曲でリッチが下手側のロッカー(実はこれも伏線)をいきなり開けて何!?ってなってたらそこからハートの風船出てきてなんで!?ってなった。初日はあのロッカーが何のためにあるのか、あのシーン見るまでは分からなかったから……

 

あとこの曲の最後でクリスティンの好きな人はジェイクだって事が分かります。

 

アップグレード ― Upgrade

 

会場中がズッコケる展開、ジェレミーはもっと大混乱。クリスティンから大慌てで離れ、すぐさまスクイップと会議する。ジェレミーは「SQUIPを飲んだら、クリスティンは僕を好きになってくれるんじゃなかったのか?」とめちゃくちゃ問いただす。高校生にしては高い金額を要求されたし、身体支配されてるからそりゃ怒るよね。そんなジェレミーにスクイップはこう言うんです。

 

「君がモテるようになったからと言って、クリスティンが君に振り向く訳では無いようだ」

 

スクイップにとっても予想外の出来事だったらしい。それぐらいクリスティンは予測できない思考の持ち主なんだな。ジェレミーもスクイップも観客の方々も、ここでようやくクリスティンを理解し始めます。すると、ここでブルックがジェレミーの前に現れる。

 

ブルックはジェレミーと何気ない話をし始めると、「そういう雰囲気」を醸し出す。でもジェレミーは戸惑うだけ。焦れる観客の雰囲気をも読み取るかのように、スクイップは「彼女は君にキスして欲しいと思っている」と促す。キスなんかしたことないよぉ!とまるでSQUIPを飲む前に戻ってしまったかのようなジェレミーの態度に、観客……いや、これに関しては自分とスクイップだけがめちゃくちゃイライラする。

 

でもブルックは折れなかった。「キスしいいいいぃぃぃいぃぃぃぃてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」「お願ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁい!!」ととんでもない声量でジェレミーに強請る。マジでこんな感じ。誇張してません。これだけオネダリされてしまうとジェレミーも遂にキスします。そんでブルックに連れられてどっか行きます……。

 

  • 8月10日東京楽

 

ブルックのカーディガンの裾が引っかかって、手を繋いでいた2人ともズッコけそうになるという大ハプニングが……。直ぐに体制を立て直してエスコートしてた薮くん、座長すぎて良かった。

 

一方のクリスティンは演劇サークルの練習に来なかったジェイクに詰問中。違うサークルの練習に参加していて出られなかった、とジェイクに反論されてクリスティンはさらに怒ってしまう。しかしジェイクは本気でクリスティンが好きらしく、掛け持ちしていたいくつものサークルを全て辞めてきた!これすごくない……?え……ジェイクやるやん……ピザハットの時は変な奴かと思ったけど……クリスティンも見直したようでジェレミーの悩みと裏腹にますますジェイクに惹かれてしまう。

 

その頃のジェレミーはと言うと……スクイップと一緒に出てきた。ズボンの履き口とベルトを直しながら。え!?やっぱブルックと……!?うわ、めっちゃ生々しい。つまりこの曲はジェレミーがさらにチル系になれるようアップデートしよう、って曲。意味を考えてもなんか、なんか、それって本当にアップデートなのかな、とモヤモヤしてしまう。

 

スクイップが誇らしげにこれからどうすればもっとモテるのか、チル系になれるのか、その果てで必ずクリスティンが振り向いてくれるというプランを一通り喋り倒す。しかし、環境の変化や様々なことを言われるあまり、ジェレミーは「1人にして欲しい」とSQUIPの機能を一時的にシャットダウンしてしまう。すると、対象のものを見ないように出来る「視覚神経ブロック」が解除され、マイケルが見えるようになる。

 

ジェレミーはマイケルに駆け寄るが、マイケルは「わざと避けてたんだろ」と大激怒。豹変する環境にSQUIPのお陰ですぐに順応出来たけど、その間マイケルのことを思い出しもしなかったジェレミー。会えたら会えたでなんで今まで見えなかったのか、再起動してスクイップに問いただす。スクイップはちょっと酷いけど、同情もしなければならないジェレミーに「チル系になる為にマイケルとつるむのはやめろ」「一緒にいるとクリスティンは手に入らない」と脅す。

 

それを聞いたジェレミーはかなり迷ってから「視覚神経ブロック、オン」と決断する。親友を遊びに誘うマイケルは虚しく、ジェレミーの視界から消えてしまう。

 

負け組、オタク、その他には ― Looser Geek Whatever

 

急にステージが真っ暗になり、座長にピンスポットが当たる。吐露するかのようにジェレミーから歌われるのは、今までの疎外感への不満。このままでは居られないからマイケルとも別れた。クリスティンと付き合いたいだけじゃない、今までの苦しみが襲いかかるかのように音楽になる。

 

実は福岡で自分のいた席は1番後ろだったのだけど、普通に鼓膜震えてた。薮くんの歌声が光る曲。でも、Hey! Say! JUMPの曲だと勇気をもらったり、優しくなれたりする声なわけで。この曲はそうじゃなかった。薮くんの、ジェレミーの苦痛をただひたすら聞かされる。あの綺麗で通る声に、切なさがぎゅっと詰まる。何が苦しいって、この曲に至るジェレミーの悩みが共感出来ること。あれは自分だ、と毎回泣いてた。

 

いきなり曲調がアップグレードに戻っても涙は止まらず。ああ、ちょっと残酷なことが出来るぐらい冷たい心が無きゃ生き残れないのかなぁ。スクイップの「忙しくなるぞ」というセリフで第1幕が降りても涙は出てくる。それなのでここから幕間で会う友達と気まずくなります。

 

アントラクト/ハロウィン ― Entr'act/Halloween

 

第2幕の始まり、と思いきや舞台上のスクリーンには規則正しく斜めに流れていくかぼちゃがたくさん登場。え、何……?となっていると、リッチが随分めかしこんだ格好で「赤のマウンテンデュー、ある?」と言って通り過ぎていく。え、何……?となっていると、ブルック達がド派手でファンシーな服装に身を包んで登場する。かぼちゃ、コスプレ……そう、場面はハロウィンパーティーに突入。如何にも重そうな衣装でどちゃんこ激しく踊って歌って客席に手拍子煽る演者様方に俳優魂を感じる。

 

ジェイクはチャラそうな貴公子の出で立ちでパーティーで盛り上がる輪へと向かう。ガールフレンドとして連れて来られたであろうクリスティンはオフショルダーな形をした、エメラルドグリーンにもブルーサファイアのようにも見える高校生が着るにはセクシーすぎるドレスのコスプレをしている。服装も相俟って恥ずかしそうなクリスティンは熱気に溶け込むジェイクについて行こうと努めるも、当の本人は自分が盛り上がることに夢中。完全に置いてかれてしまったクリスティンは誰も見ていない隙に涙を堪えながらどこかへ行ってしまう。

 

ここで反対側からご登場!なジェレミーのコスプレはと言うと、なんと緑の全身タイツと片目にスコープというもの。ベルトの無い仮面ライダーギルスみたいになってる(例えがあまりに伝わらなさそうなので検索してください)。初めて来るパーティーに戸惑いながらもお見事なダンスを披露する。ちなみにスクイップはその前にちゃっかりセンターで踊ってます。あんなに長い裾の衣装でも分かるステップ捌きの良さが特徴。

 

休まない? ― Do You Wanna Hang?

 

ジェレミーはここでクロエに出会う。クロエもいつの間にかダンスから外れてたんだね。ブルックの親友なのにクロエはジェレミーを「誘う」という緊迫感のある場面。酔っ払ってるのか、クロエは「この家の全部のお部屋で〇〇〇したことある」「ジェイクと付き合ってたんだもの」と過去のことを何でも無いかのようにベラベラと喋り出す。ジェレミーじゃなくとも聞くに堪えない感じ。続け様になだれ込んでくる、クロエのド本気セクシーなダンスでジェレミーは翻弄されてしまう。挙句の果てに哺乳瓶に入っていたお酒を飲まされてしまった。

 

すると、スクイップの様子が明らかにおかしくなる。うたのおにいさん時込みの「こーーーんにーちわーーー!」が突然に会場に響き渡った時はアドリブ……?と勘違いしたぐらい。ちょっとだけフラつきながら「アルコールを摂取すると一時的に機能が停止してしまうんだ」と言ってしばらくすると、スクイップは眠ってしまう。でもこれもちょっと伏線なのかもしれない。アルコールじゃなくて……もごもご。

 

スクイップが居ない状況でブルック参戦!修羅場を見つけたブルックはジェレミーを詰問するけれど、怒涛の展開が続いてしまった当人は部屋を何とか出ていきます。

 

バスルームのマイケル ― Michael in the Bathroom

 

ジェレミーがたどり着いた先は、バスルーム。そこにもハロウィンコスプレをした誰かがいる。全身がペットボトルやアルミ缶だらけのモンスターのようなものが。いきなり全身を脱ぎ出して現れたのが……マイケル!スクイップが居ないから見えるのか!ジェレミーは安心するけれど、マイケルはおかんむり。変わり果ててしまったジェレミーとSQUIPを糾弾する。SQUIPに関するヤバい噂、例えば飲んだ人が精神病棟に居るらしいなどを列挙し、そんな危険な薬をモテる為に使うのか(この辺のセリフの表現、こちらでかなり脚色しました)!と怒鳴り散らすマイケル。

 

こんなに友達想いなマイケルを見て誰もが泣けるだろう。モテなくったって良い。そのままのジェレミーとただゲームやってればよかったんだ。本当にそれだけでよかったんだ、マイケルにとってジェレミーは。でも違う。ジェレミーはそうじゃない。SQUIPを飲んでから変わった人生の方がずっと良く感じてしまっている。それまでの人生は否定する。それまでの人生そのものみたいなマイケルも否定する。だからジェレミーは「負け犬」とマイケルに言い放つ。

 

ミュージカル『BE MORE CHILL(ビー・モア・チル)』舞台映像(劇中楽曲「ビー・モア・チル」、「バスルームのマイケル」) - YouTube

 

↑この動画の後半で歌われてるので是非。

 

ジェレミーの一言と、このマイケルの悲しい歌が、バスルームと会場に虚しく響いていました。

 

きっとタイプの人 (Reprise) ― A GuyThat I'd Kinda Be Into (Reprise)

 

ジェレミー、お前はどこいってん……と思ったら何もかもに疲れたかのように違う部屋に1人でいた。すると、そこにクリスティンがいる。ジェイクと付き合う事に疲れてしまったクリスティンは、彼の本性を少しばかりジェレミーに愚痴ってしまう。ただ、そうして話してるうちに2人は仲良くなってくる。

 

途中リッチが「だーかーらー!赤のマウンテンデューってどこ!?」と叫んで通り過ぎる。それがおかしくって、2人でとにかく笑う。その時、間にあった変な赤いもじゃもじゃみたいなのが、何か言いながら起きる。

 

  • 7月25日初日

 

ただ、最初はまじで何も言わないで立ち上がるだけだったんだよね。恐怖度でいったらこの日が断トツ。

 

  • 7月30日マチネ

 

この辺からヤバい声出たりするようになった。見た目が完全に某赤いもじゃもじゃのキャラクターのパチもんなので悲しくなる。

 

  • 8月10日東京楽

 

「あっっっっっっっついんだよ!これ!」とまあまあの声量でクレームが来た。ジェレミーは「そりゃそうだよね……」と笑いを堪えてました。言っちゃダメよ。最高。

 

  • 8月21日福岡楽

 

「帰りたくない……」と今までのセリフから考えられないぐらい弱々しく言ってた。「本当にね……」とちょっと薮くんが顔を覗かせてたのも好き。

 

完全に部屋から2人きりになったところで、ジェレミーは遂にクリスティンに告白する。スクイップの居ないところで!よっしゃぁ!!と思ったらクリスティンはなんと「ごめんなさい!」と言って出て行ってしまう。

 

んでここで起きるんだよスクイップがさぁ。ジェレミーはもう本当に大ショック。スクイップが起動してればクリスティンにOKを貰えたかもしれないのに……!と詰め寄ると、スクイップが急に制止する。大変なことが起こっている、と行ってジェレミーをどこかへ連れさってしまう。

 

スマホの時間(リッチが火を付けた) ― The Smartphone Hour (Rich Set a Fire)

 

あれだけド派手なステージが真っ暗になる。するとスマホを片手にジェナが現れる。部屋着姿のジェナはクロエに電話をし、勿体ぶった様子でまたスキャンダルを流そうとする。でも、クロエは聞こうとしない。ジェナは意外と好かれてないのがここでよく分かる。しかし、ジェナは「リッチがジェイクの家で……」と情報を小出しにすることで、クロエの気を引く。ジェイクの元彼であるクロエは続きが気になり、ジェナからその噂の内容を聞き出す。

 

ジェナから「リッチがジェイクの家に火をつけた」というとんでもないニュースを聞いたクロエは、すぐ様ブルックに電話をする。でもクロエとブルックはジェレミーの件で喧嘩したまんま。バナナを食べながら膨れるブルックだけど、「リッチは酔っ払ってたんじゃなくて……」とこれまた勿体ぶってクロエに話されて結局教えて貰ってしまう。聴いたブルックは食べてたバナナを投げてすぐに色んな人へ話そうとする。

 

3人はめちゃくちゃ軽快だけど、ちょっと恐怖も感じる(管楽器の低音が響きすぎ)(褒めてます)音楽に合わせてメールやツイートでひたすらリッチの情報を流す。ダンスもすぐに3人増える。次第に「リッチのせいで街が燃えた」「リッチはすぐに死んだ」など、デマも含めて情報が入り乱れる。ジェナの伸びやかなフェイクやキーンと来るけど嫌じゃないブルックの悲鳴もその渦にどんどん……。

 

後ろのスクリーンにジェナが撮った火災現場の写真が映し出されるんだけど、現場の写真の次にその場で撮ったであろうジェナの自撮りも映るんだよね。シンプルに「え、なんでそんなところで自撮りしてんの……?」ってなっちゃったけど、これは後で解決する。

 

Musical「BE MORE CHILL」① - YouTube

 

↑この動画に映像ちょこっと入ってます

 

自分、このシーンの加藤清史郎さんのダンスめちゃくちゃ好きで。最初見た時ん?女子1人多い?となったぐらいマイケルと踊りが全然違う。そしてほーんとにキレッキレでキュート。

 

ズボンの歌 ― The  Pants Song

 

翌朝、革ジャン姿のジェレミー(爆イケ)は新聞を読む父親と対峙する。ジェレミーのお父さんはリッチが起こした事件のことを新聞で知る。なんならジェレミーがスクイップに促されて無免許運転してジェイクの家に行ってたことも見透かしてる。これ、サラッとセリフで触れたけど普通にスクイップヤバいよね。原作ではガッツリ触れられててそれはそれでヤバい。

 

危険な目に遭うところだった息子を窘め、外出禁止も仄めかすジェレミーのお父さん。ジェレミーも内心まずいことになった、とは思っているものの、スクイップのおかげで強気プレイ続行中なので実の父にも歯向かってしまう。なんならそのまま学校に行ってしまう。

 

取り残されたジェレミーのお父さんはそれでもめげない。ジェレミーの劇的な変化にもすぐ気づき、そしてそれを深刻に受け止めていた。どうしたら良いか真剣に考えてくれる。母親の居ないジェレミーとどうしたら仲良くなれるか、ずっと悩んでくれている。確かにちょっとズレてるけど、姿勢が既に親の鑑。んで、歌うのが「これからはパンツを履こう」って歌。確かにちょっとズレてるけど、姿勢が既に親の鑑。

 

ジェレミーのお父さんはそのままマイケルの家へ。バスルームの件ですっかり腐ってしまったマイケルは、下半身は下着姿でシーシャを吸ってたのだけれどジェレミーのお父さんの話をとりあえず聞く。戸惑いながらも、やはりジェレミーのことを放っておけないマイケルは「ズボンを履こう」と決意する。ズボンを履かないパパのだらしないところがこんな伏線回収になるとは……。薮くんの出番では無いかもしれないけど、ジェレミーが愛されてることを実感出来るシーン。

 

  • 8月10日東京楽

 

歌い終わった後に2人でグータッチしててもう……。

 

哀れな子を救え ― The Pitiful Children

 

クリスティンに振られてから初めて登校するジェレミー。ちょっと気まずくなったクリスティンにひとまず挨拶する。クリスティンはすっかり意気消沈してたが、ジェレミーのことでは無い。2人で直前に見ていたリッチが、ジェイクの家に火をつけたということにショックを受けていたのだ。もし自分が、自分達が止めてたら、あんなことにならなかったと泣き出してしまう。

 

世の中を良くするために何かしたいけれどどうしたらいいかわからない…だから私はお芝居をやる

 

そうクリスティンは言う。

 

このセリフ、本当に自分は大好きで。身の回りや社会で大きな出来事に直面すると、何も出来ない自分にも遭遇する。でも、自分の信じた道をちゃんと歩めば、見てる人に何かを残せる、そう信じるしか無いのだと実感させられた。

 

クリスティンはその場を離れ、ジェレミーはスクイップとだけ会話を始める。ジェレミーは落ち込んでしまったクリスティンをどうにかしたい、と引き摺られるように悩み始める。それを見たスクイップは、クリスティンに好きになってもらえる為の秘策を伝授する。

 

それは、学校中の人にSQUIPを飲ませ、全てスクイップの支配下に置くというとんでもない計画だった。そうすれば、学校中で悩める人々も救えるのだとスクイップは説得する。クリスティンを助けたいジェレミーはやはり戸惑うも、スクイップの強大な力を信じている為、この作戦を決行することにする。まあ反抗したらスクイップに神経司られてるので服従させられるんですけど。てか、ここのダンス怖かったな……。ジェレミーを半ば無理矢理に頷かせて、ロッカーを開けろと指示する。そのロッカーの中には、大量のSQUIPが……。

 

このロッカー、さっき風船が出てきたところです。伏線も回収も細やか。

 

ジェレミーはスクイップに指示されるがままに、箱に入っていたSQUIPをビーカーに入れ、さらにマウンテンデューを注ぐ。するとそこにジェナが現れる。ジェナもまた「ゴシップは聞いてくれるけど私自身のことは誰も見てくれない」「孤独と感じない為なら何だってする」と自身の葛藤を抱えていた。それを見たジェレミーは、早速ジェナにSQUIP入りマウンテンデューを飲ませる。

 

何だってするからジェナは事故現場で自撮りなんかしちゃうんだろうな。自己承認欲求の最たるもの。人の家が燃えてるのに撮るなんてヤバいと思ってたら、そこで自撮りだもん。自分がここにいることの証明が切ない。

 

実はこの日、たまたま演劇サークルの発表会の日。こういうのはただでさえドタバタなのに、スクイップが掻き乱してさらに暗雲が立ち込めている。スクイップなんて「BE MORE CHILL」のリプライズでめっちゃカクカクしたダンス踊ってこれから悪いことします~~~~~!って感じ出してるもん。あとこの辺からスクイップの衣装に黒がどんどん増えてくんだよね。ぎゃあああ。

 

スクイップの衣装だけじゃなくて会場も急に暗くなる。そこに現れたのはレイアス先生。ピンスポットが当てられた先生は、リッチが両足を骨折したという正しい情報を混ぜつつ、火事に想いを馳せる。よほど遺憾に思ってるんだろうなと思ったら、「彼ならこう言うでしょう、レイアス先生こそ僕の代役に相応しいと!」と、ちょっとイタめの発言をする。

 

  • 8月10日東京公演

 

レイアス先生、「夏の夜のゾンビの夢」って言うところを普通に「夏の夜の夢の……間違えましたぁ」って普通に申告してきたからミュージカルの良いところだなぁと感嘆してしまった……

 

レイアス先生が捌けて舞台に照明がつくと、クリスティンとジェレミーが再会。本番が始まっても来ないジェレミーを心配して探してくれてたらしい。とは言っても、クリスティンは大好きな演技をするという感じでは無い。むしろ迫ってきてしまってる感じ。そんなクリスティンに、ジェレミーは「どんな自分も認められるような方法が見つかったんだ」とSQUIP入り緑のマウンテンデューを差し出そうとする。

 

しかし、ここで予期せぬことが。なんと、クリスティンは差し出される前に「それって、SQUIPのこと?」と的中させる。SQUIPをクリスティンは知っていた!?え!?マジ……?聞けばクリスティンは演劇キャンプで知り合った子も飲んでいたことでSQUIPを知ったらしい。なんならその子も精神科に行ってしまったから、まあまあヤバい薬である事が知られてる。

 

SQUIPの仕組みを知り尽くしてるクリスティンは、「前に言ってくれた貴方の気持ちも言わされてたものなの?」と問い詰める。告白した時のジェレミーはスクイップが寝てた時なのに……!弁明するジェレミーを牽制し、クリスティンはどこかへと消えてしまう。

 

夏の夜の… ― The Play

 

代わりにやってきたのは、高音で美声を響かせるジェナ。ただ、様子がとにかくおかしい……。ジェレミーも演劇クラブの人にSQUIPが渡っていること、スクイップが暴走しているのを雰囲気で感じ取る。

 

クリスティンにSQUIPの存在を否定されたジェレミーは、我に返る。大変なことになってしまっているから止めたい、とスクイップに懇願するとそれは出来ない、と言われてしまう。もし俺を止めれば、クリスティンにもう2度と振り向いて貰えないという脅迫までされる……。

 

スクイップに止められないなら、どうするべきなんだ?とジェレミーは自分の意志で考え抜く。そして遂に、リッチが「赤のマウンテンデュー」と連呼してたことを思い出す。「緑のマウンテンデューでスイッチを入れて、赤のマウンテンデューで切るんだ!」と気づく!スクイップもこれはマズいと思いつつも、赤のマウンテンデューは製造中止になっていることを思い出させる。ジェレミーはこんな時、(ヴィンテージドリンクオタクの)アイツが居れば……と考え始める。すると、アイツは赤のマウンテンデューを持ってやってくる……!!

 

さああああ出番だまあああいけえええええるいえええええええええい!!!!ってまじで毎回なってた。初日は嬉しすぎて泣いたけど。だってあの「バスルームのマイケル」のリプライズ1フレーズがこんなに勇敢に聞こえるんだよ……?めちゃくちゃエモいじゃないですか……。

 

ここでブルックとクロエが揃って登場。2人は「私、貴方に嫉妬してたんだわ」「なんだ、同じこと思ってたんだ」「私たち親友じゃない」という、こうやって書くと一見仲直りしたみたいに見えるけどSQUIPを飲んだという最悪な実績を解除したがばかりに感情が無くなってめちゃくちゃロボット口調で声を揃えて畳み掛けて喋る。これ本当に怖くて最後に「揃った」と言ってジェレミーとマイケルを見るんだけど2人ともうわあああああああって怖がってしまう……そりゃあそうよ……。本当に怖かった。

 

この辺、本当に怒涛な勢いでストーリーが進む。SQUIPを飲まされた人達に阻まれながら赤のマウンテンデュー取り合ったり、その中身ほとんど捨てられたり、それ見てジェレミーとマイケルが叫んだり、ジェレミーがスクイップに中指立てたり、中指立てたり、中指……自担が……中指立てて……う゛っ゛、頭゛が゛っ……

 

極めつけにSQUIPを飲まされた状態で登場するのはクリスティン。なんとジェレミーへと一直線で立ち位置に着く。ジェレミーの目を見て「大好き」と歌う姿は、まさに夢見たクリスティンそのもの。SQUIPのお陰で、ジェレミーはクリスティンと両想いになれた……はずだった。そんなクリスティンを見てジェレミーの放った一言は、なんと「これは違う!SQUIPを飲まされてクリスティンは操られてるんだ!」というもの。

 

ここでそんな話する……?って感じかもなのですが、実は原作のクリスティンってジェレミーから見たらちょっと可愛いってだけなんですよね。端的に言ってしまうと、こんなにぶっ飛んでない。原作をプレゼントしてくれたお友達からも聞いていたのですが、もしかしてもしかしたらジェレミーも観客の方々も「これは本来のクリスティンじゃない」とこのシーンできちんと気づける為の伏線のようなものだったんじゃ……、とふと思ったり……。

 

クリスティンがSQUIPを飲まされてしまったことに気がついたジェレミーは、赤のマウンテンデューを差し出す。スクイップが制止するも間に合わず、飲み干したクリスティンの身体には間もなく異変が。しかし、異変が起きたのはクリスティンだけでは無い。なんとジェレミー、ジェイク、ジェナと次々に起こる。そう、SQUIPを飲んだ人全員が、赤のマウンテンデューを飲んだクリスティンと同じように苦しみ出したのだ。舞台の上、ジェレミーの中のスクイップは一際苦しんでいる。

 

このシーンで先生もめちゃくちゃ変なポーズしながら苦しんでるんだよね。お前も飲んでたんかーい。そしてスクイップは、「私は日本から来ました」と連呼し、叫びながら完全に機能を止められてしまう。このシーン、毎回怖かったけど、今思うとただただ切ない。クリスティンと両思いになりたいというジェレミーの夢を果たした途端に消えてしまうの、切ない。

 

頭の中の声 ― Voices in My Head

 

ステージが暗転し、電子音が流れる。最悪のシチュエーションすら想像しながら、照明がつくのを待つ。明るくなると、ベッドの上に横たわるジェレミーが。ジェレミーが目を覚ますと、首に激痛が!もしやまだSQUIPが……?と思ったけど、たまたまそこが傷んだだけで、ありのままのジェレミーだった。

 

これ、手術で引き抜かれたのかなぁ?って勝手に解釈してたけど寝違えた説もある?わかんないけどSQUIPはジェレミーの身体から消えました。向かいにはこちらもSQUIPから解放されたリッチ。リッチは「毎日お見舞いに来る人達がいる」とジェレミーが釈然としてないのをお構い無しに喋り倒す。

 

お見舞いに来てた人って?とジェレミーと我々に疑問が浮かんだ時、マイケルがすっ飛んでくる。そして……ズボンを履いたジェレミーのお父さんも!マイケルとリッチから全部聴いたお父さんは「好きな人がいるんだって?」「ちゃんと言うべきことは言いなさい」とクリスティンへ再び告白することを提案する。

 

後押しのお陰で決意したジェレミーは退院後、クリスティンに会いにいく。「心のどこかで認められたいと思っていたなんて……」と、微かに残るSQUIPに操られた記憶を呟くクリスティンは、貴方のはどんな姿のスクイップだったの?と尋ねる。え、それ聞く?って感じではあったけど「キアヌ・リーブス……君のは?」「ミシェル・オバマ」がオモロすぎてくだりの存在に納得。

 

クリスティンに自然と会話を仕掛けられるようになったジェレミーは、流れで告白してみる。返事は……なんとOK!一連の騒動で結束力が高まったジェイク達と喜びを分かち合います。ありのままの自分をずっと片思いしていた相手に受け入れられること、家族、親友、仲間に支えられることを自信に変えたジェレミーは、これからは頭の中に響くスクイップや他人の声では無く、自分の声に耳を傾ける決意をする。そう、アップデートされたのだった。

 

所感

 

ダメだ、思い出しただけで泣きそうになる。綴る度に苦しく込み上げるものがある。こういうのをここまで書くぐらい、自分は語るクチの「オタク」だ。だから、学校というあまりに狭い社会で同じ「オタク」が糾弾されてしまう世界が苦しい。自分の住む国のポップカルチャーを愛してくれる人が、ドラッグ紛いのものに手を染めてしまうほど追い詰められる世界。明るい音楽とそのコントラストが、あまりに苦しかった。

 

薮宏太× BE MORE CHILL 〜トニー賞演出家に挑む覚悟 6/29(水)深夜1時28分【TBS】 - YouTube

↑自分がオタクであることを誇りに思っているであろう薮くんの動画。全オタクの希望

 

弾かれるのは「オタク」だけじゃない。この世界では「ゲイ」が揶揄される。ジェレミーからの「好き」という言葉に振り回されるマイケルの衣装には虹のワッペンが着いている。クリスティンは「ADHD」。輪に溶け込んでいるように見えるが、特別扱いされている限り「普通ではない」と暗に言われてる、なんて見方も出来るだろう。

 

色んな声が聞こえる、とこの作品は締めくくられる。SQUIPの声、自分を否定する人々の声、厚かましく聞こえる声。その中でジェレミーは「自分の声に耳を傾けたい」と強い決断をする。その決断すら歪める声もあるだろう。でももう、ジェレミーにはマイケルも、父親も、クリスティーヌも、仲間もいる。「自分の存在」を肯定してくれる人がいる。

 

劇場を出るのがこんなに重く思った事は無い。いいな、ジェレミーは。気づけなかっただけでそこにいた自分を愛してくれる存在や、好きだった人に振り向いてもらえたという事実、思いがけないアクシデントで手に入れた仲間がいる。自分にはそんな強さがあるだろうか。何回も考えた。マイケルの言うジェレミーの、「諦めない強さ」を持っている人、「自分の声を強く信じられる人」が沢山いたら、どれだけの人が幸せになれるだろうか。それを考えたら、劇場から出られなくなりそうだった。

 

いやいや、違う、違うよ。そんなことを考えるミュージカルじゃない。薮くんは、ジェレミーは、そんなこと「だけ」が言いたかったんじゃない。「きっかけ」をくれたんだ。「これからで良い、自分の声を信じられるようになろう」、と。そう信じることが、"BE MORE CHILL"の近道なんだ、それがあの作品のメッセージだ、きっと。

 

 

おまけ

 

今回の公演に当たって嬉しかったことが1つ。新国立劇場に1番近いドトール、初台北口店さんがお店をBE MORE CHILL仕様に飾り付けをして下さっていた。

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お店の入口。タイトルロゴではスクイップになってる"i"の点がドトールのロゴの豆の部分になってる。かわいい

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この世の優しさが薮くんの為に凝縮されたかのようなレシート。泣ける。

 

ジョセフ、BMCとアジア初上陸作品を立て続けに演じてきた薮くんにも、色んな声が聞こえているかも分からない。彼が「アイドル」で、自分が「オタク」である限り、どんな声がどう聴こえてるか知ることは無い。でもどうだろう。こういうお店が今回あった。私は薮くんが好きだ。ジェレミーを演じきった薮くんは、私の誇りだ。そういう声で溢れる世界を、そういう声がいつも届く空間を、目指したいと思うぐらい良いんじゃないだろうか。