鮫が空を泳ぐ時

飛行機にはできなくても、貴方はきっとできる。

ハルが2階から落ちてきた~薮宏太主演ミュージカル「ハル」観劇レポ


Hey! Say! JUMPのメンバー・薮宏太くんが約10年振りに単独主演を務めたミュージカル「ハル」を観劇させて頂いた。感想なんぞ書けるのか、と思いつつもつらつらと書いていきたい。一人の観客としての視点を混ぜながら、でもやっぱりただの薮担な主観で。兎角指が足りないほど挙げられるウチの座長のポイントから選りすぐりの3つを中心に。


尚、相変わらずネタバレしか含んでいないため観劇後の閲覧を強くオススメする。また、薮くんが3月末まで掲載されていた雑誌や「ハル」公式グッズであるパンフレットからも文章を度々引用しているので御了承願いたい。



  • ボクシングシーン


情報解禁当初からメイン要素筆頭と言われていたボクシング。しかもただやるだけではなかった。ミュージカルでボクシング?あまりというかもはや聞いたこと無いことの無い組み合わせ、物語の時系列に沿って上手くなっていくという設定、故にかなりのレベルに持っていかないと最初の初心者のシーンに違和を感じる、求められることの多さが、ボクシングにはかなり詰まっていた。



そしてちょっと驚いたのがハルが右利きであるという設定。北乃きいさん演じる真由がハルに「右利き?」と聞き、「うん」と答えるハルに対して「え?左利きじゃないっけ?????」と思わずツッコミを入れそうに。それもそう、ハルを演じる薮くんは左利きなのだ。



良かった点に挙げたはものの、正直ボクシングは未経験で、ここがどう良かったなんぞ言ってしまうようなことなど薮くんに出来ない。じゃあなんでこの項目を書いたのか?ボクシングというひとつのスポーツを通して、たくさんの期待を背負って挑戦することの凄まじさ、人のひたむきな姿の美しさ、薮くんとハルがそれぞれたくさんの大切なことを教えてくれることをどうしても特記したかったからなのだ。



レーニングのシーンがあるのだが、私が観た4月8日の東京公演、ソワレでハルは腕立て伏せ、片脚ずつの腕立て伏せ、腹筋をしながらのシャドーなど、ツアー裏でメンバーがハマっていた中ただ1人筋トレをさせてもらえなかった人が演じてるなんて想像もつかないようなメニューをこなしていた。ボクシングはハルやハルの町の人だけではなく、薮くんにも大切な変化をもたらした。







主人公のハルの性格に対して薮くんは雑誌で

色々な風に捉えるところは一緒に思えるけど、僕は前向きに考えられるタイプ


としていた。たしかに薮くんは自他共に認められるほどの客観的に自分のことや物事を考えられるタイプ。ある媒体には「俯瞰できる人物」と評されていたことも記憶の片隅にある。一方のハルはというと、「重い病を長い間抱えていたことから閉鎖的な性格」というだけあって周りの空気を読めないほど主観的に目の前のことを見てしまう。その上、高校生ぐらいまでの人特有の、学校と家とその周りを漂う狭い環境が全てだという先入観に、ハルはものすごく苦しめられる。



ハル観劇後に感想ツイートをつらつら読んだが、私と同じように「ハルがしっかり高校生に見えた」と思う人がたくさんいた。



薮くんは今年の1月で29歳になったので、ハルとは一回りも年齢差があることになる。ただ薮くんは、

演じる上で抵抗はないです。学校に通っていたというぐらいで、もう17歳当時は今の仕事を始めていたので、あまり今と変わらないから


などと言う。17歳ともうすぐ30歳があまり大差ないってそれって本当に?薮くん?まじ?とも思うが、そんな感じもしっくりとハルが高校生にみえた所以だろう。

完全にハル、っていう人はさすがにいないけれど、似たような人は見てきたから分かる

ハルに対しても薮くんは少し客観気味に捉えている部分はあるだろう。でも演じる、接する上で、薮くんは誰よりもハルを理解しようとしたのでは無いだろうか。「ああ、青いね、」で関係が終わってしまいそうな相手を最後まで優しく、繊細に接したから「分かる」とハルに対して言えたのではないだろうか。「分かる」から、舞台の上のハルは高校生に見えたのではないだろうか。





もうこれに限るのだ。安蘭さんと栗山さんが歌うところに薮くんの声が混ざった瞬間の高揚感は死ぬまで忘れないだろう。ハル役のあの人の何がやばいって、このツイートで引用した文章で


昔は感情を込めれば伝えられるって思ってたんだけど、


と今思うことを前置きしているのだ。さっき言ったじゃないか!17歳と29歳じゃ"気づいてしまうこと"の多さが段違いにある。そんな少し切なくて酷な事実を知ってるなんて微塵にも感じさせない歌だった。目に見えないことを言葉に残すのは困難を極めるけれども、純粋に聞こえる歌を歌える薮くんが持つのはやっぱりスペックなのか、それともその事実にも揺るがない信念めいたものがあるからなんじゃないかと思わせてくれたすごさは書き残しておきたい。最も、その時の衝撃だったり前向きな気持ちだったりは忘れがたいのだが。




所感


あまりにも温かく、でも鋭く突き刺さる物語からまだ夢見心地で、深く頭を下げる薮くんに拍手するのが精一杯だった。同時に「ハル」に出てくる登場人物それぞれに感情移入できる自分に少し自信がついた。それだけ様々なことにぶつかった人生を肯定してもらった気持ちになれた。もっと生きていたいと思えたこと、生きてるなら仕事にしろ私生活にしろもっといろんなことを吸収して意味のある人生にしたいと思える自分を少しだけ誉めてあげられる気がした。ただ、そんな自分のことなんかよりも、日々を精一杯生きる人の胸に温かく突き刺さる音楽と物語が終わり、カーテンコールで舞台の中心に立ち、一身に喝采を浴びる薮くんが誇らしかった。こうやって誰かに寄り添って、心を突き動かす力を持つ薮くんとハルが、とても輝いて見えた。そんなミュージカルが千穐楽まで無事に駆け抜けられることを祈っている。